信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


 
   埋伏歯の抜歯(入門編)   1998/12/9 小池剛史

参考文献:手際の良い智歯の抜歯(クインテッセンス)

1、智歯は何故抜歯するか

   1)周囲の歯肉・骨が炎症を起こす。

   2)第2大臼歯が齲蝕になる。

   3)嚢胞を形成して骨を破壊する。

   4)第2大臼歯に萠出異常を起こさせる。 

   5)他の歯を押して歯列不正を引き起こす。

   6)下顎角部の骨折を起こしやすい。

2、近心傾斜埋伏智歯の分類

 抜歯の難易度は、埋伏位置の深さによってA<B<Cの順に、近心傾斜の角度によって1<2<3の順にそれぞれ高くなる。つまり、下図では右下に近づく程困難な抜歯になると予想される。さらに、第2大臼歯の歯軸傾斜によっても抜歯の難易度は左右される。

 

※智歯は最後臼歯であるためスペースのある遠心側に倒して抜歯する事が多く遠心の歯槽骨頂の位置を見極めることが重要である。レントゲン写真で、智歯の遠心歯槽骨に目を向ける事が容易な抜歯かどうかを判断するこつである。

3、水平埋伏智歯の分類

 抜歯の難易度は、埋伏位置の深さによってA<B<Cの順に下顎枝前縁と第2大臼歯遠心面との距離によって1<2<3の順にそれぞれ高くなる。つまり、下図では右下に近づく程困難な抜歯になると予想される。さらに、水平智歯の中には歯軸が頬側あるいは舌側方向に傾斜するものもあり、通常の頬側からのアプローチによる抜歯では摘出する方法を考えると頬側方向を向いたものは容易で、舌側方向を向いたものは困難になることが予想される。

 

4、埋伏智歯抜歯の実際

 1、メスにて第2大臼歯遠心に被覆している粘膜弁上を後方から前方に向かって切開を加える。この位置は内斜線と外斜線の中間ないし、やや頬側よりで触診で骨面を確認してから行う。次に第2大臼歯頬側中央部より近心より(歯間乳頭は禁!)に、前下方に向かって縦切開を加える。その後第2大臼歯の歯頸部に沿って、環状靱帯を切断する。切開は骨膜まで確実に施す事が重要である。骨膜剥離は縦切開より始め、骨膜剥離子を骨面に強く当てて、こするように操作していく。(図4-1参照)

 2、丸ノミで、またはタービンにて歯冠を被覆する頬側及び遠心骨の削除。

 3、タービンを用いて、歯冠を頬舌的に切断する。フェザータッチで軽く上下に振動させると切断能率がよい。注意すべき点は、バーの角度が遠心に傾くように心がける事である。でないと分割した歯冠が第2大臼歯遠心アンダーカットに入って除去出来ない事が往々にして起こり得る。(図4-2参照)

 4、切断は歯冠の下部及び舌側部を一層残すつもりで行う。歯冠の舌側下部の切断が不十分になりやすい為、切断の最後には、図の如くバーの先端を少し舌側に傾けながら行う。(図4-3参照)

 5、歯冠の下方に残しておいた部分を、平ノミで槌打して破折する。あるいはヘーベルの先端でこじる様にして破折する。

 6、分割された歯冠は下方にヘーベルを挿入することで容易に除去出来る。

 7、残った根部を脱臼させ抜去する。ヘーベルを頬側の歯根膜空隙に挿入して行うが、挿入が困難な場合は、骨削除を行いスペースを作製する。もし、脱臼しない場合には歯根の異常を考え、根部の分割や、骨削除を考慮する。

 8、根部の抜去の際にスペースが足りない場合は、無理をせず再度タービンで分割か、少量であれば遠心の骨を削除してから行う。(図4-4参照)

 9、第2大臼歯遠心部の不良肉芽を掻爬除去。

 10、歯槽骨鋭縁の整理、生食洗浄。

 11、縫合の前に縦切開の近心部骨膜を剥離しておくと針を通しやすい。(図4-5参照)

 12、エアータービンを使用した場合には、皮下組織内にエアーが入り往々にして気腫が生じることがある。診断は容易でビチビチと捻髪音を指先に感じる。抜歯後の浮腫を少なくするためにも、指で8に相当する頬部を下顎下縁から上方に向けて圧迫し、エアーを出来るだけ除去する。

 13、縫合は縦切開に引き続いて遠心切開部を縫合する。原則として剥離弁から針を通し非剥離弁に固定する。

 14、その後手指でフラップを圧迫する事で骨と骨膜を密着させ、骨膜下に貯まっているエアーや血液を取り除く。術後の腫脹や内出血を防ぐ意味で重要である。

図4-1 図4-2 図4-3図4-4 図4-5

※歯冠分割・除去が的確に行われているにもかかわらず、歯根が脱臼しない場合は、歯根の異常(後日)あるいは歯軸の異常(特に舌側傾斜を伴っていることが多い)が考えられる。舌側傾斜している場合、歯牙の脱臼方向は舌側であるため、歯冠の一部が舌側歯槽骨にあたり脱臼できない。無理な力を加えて脱臼させると、舌側歯槽壁の破折を生じたり、破折部より誤って歯 牙を下顎骨と舌側骨膜の間に迷入させてしますことがあり、注意が必要である。このため、歯冠分割は通常よりも舌側歯冠を多めに切断するのがよい。また、埋伏位置が低位で歯冠の舌側一部が舌側の歯槽骨に被われている場合には、歯牙を3分割して抜歯する方が安全である。

参考文献:手際の良い智歯の抜歯(クインテッセンス)


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